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Christian Scott aTunde Adjuah(クリスチャン・スコット) [The Centennial Trilogy](センテニアルトリロジー)

クリスチャンスコット

アメリカ・ニューオーリンズ出身のクリスチャン・スコットは、近年のジャズ再興の最前線にいるトランペッターです。
バップ、トラップ、ネオ・ソウルなどなど、都市音楽のさまざまな要素をミックスしてレコーディングに取り入れるジャズミュージシャンの長い行列があり、クリスチャン・スコットの名前はその行列の最前線にあります。
2015年にリリースした「Stretch Music(ストレッチ・ミュージック)」で、ジャズミュージシャンとして、というより「次はどんな音楽を作ってくるんだ?」と期待がかかる音楽家として記憶されるのに十分なインパクトを残しました。

[Stretch Musicの代表曲:Sunrise in Beijing]

スコットのニュープロジェクト


今年の3月に「Stretch Music(ストレッチ・ミュージック)」をストレートに発展させたアルバム「Ruler Rebel」を発表。同時にこの作品は、ジャズが初めてレコーディングされた1917年から数えて100周年であるメモリアルイヤーの今年に合わせて製作した3部作の第一作をであることが明かされました。


はっきり言ってこんなにジャズ100周年記念作品というコピーが似合わないアルバムもなく、前作ではまだ控えめだったシンセサウンドが自然と溶け込む新鮮なサウンドは、「Stretch Music」の発展と表現するより新境地と言ったほうがいいくらいで、タガが外れたと言うべきか、100年以上続くジャズの伝統を祝福するような保守の美しさは顔を出さず、代わって聴こえてくるのは成熟した新時代のジャズのサウンド。

コンセプトとして僕らが目指しているものは、ジャズのイディオムに出来る限り多くの音楽言語、演奏スタイル、風景を取り戻すこと。過去100年間でジャズから失われてしまったもの、それを再びジャズの本流に導き、さらによりクリエイティヴなものにする事さ。

(出典:「オフビート&JAZZ #64 クリスチャン・スコット インタビュー」)

「レディオヘッドがロックでやっていることを自分はジャズの文脈のなかで成し遂げたい。」

(出典:シンコー・ミュージック「レディオヘッド・スタイル」)

「ルーラー・レベルとディアスポラで、あなたは自身のことを「ソニック・アーキテクト(※音の建築家。音響家の方がニュアンスにあってますかね?)」とクレジットしていますね。私が見たことのあるレコードのクレジットで最もクールでした。その言い回しはどこから来たのですか?」
スコット「トム・ヨークのアトムス・フォー・ピースで一緒にプレイした時に彼から学んだことです。アトムス・フォー・ピースは素晴らしいミュージシャンの集まりです。フリーがハイレベルなトランペット演奏をできることも衝撃でした。アトムス・フォー・ピースで学んだことは、私の音楽にアプローチする方法を変えました。(中略) 私の音楽の音響的な側面はオルタナティブロックとその文化からつかんでいます。」

(出典:GQ「Christian Scott aTunde Adjuah: The Air Jordan-Wearing, Migos-Listening Future of Jazz」)


[Atoms for Peace & Christian Scott play The Eraser]

こういった発言を読むだけで、ただのジャズミュージシャンではない雰囲気が伝わってきますね。

現代ジャズミュージシャンに影響を与えるレディオヘッドの”ソニック”に関しては、クリスチャン・スコットと同世代のドラマー、ケンドリック・スコットもこんな発言を残しています。

「レディオヘッドの、あのソニック・スペースは凄い。その感覚は、僕が演奏してもおかしくないと思える。」

(出典:intoxicate 「ケンドリック・スコット インタビュー」)

クリスチャン・スコットやケンドリック・スコットなど、この世代のジャズミュージシャンに影響力を持つレディオヘッドのソニック。(ソニックって何でしょう。音響空間的な捉え方で合ってるんでしょうか?)


なぜ、レディオヘッド? デビューアルバム『ムード』をリリースしたばかりの2004年のインタビューで、ロバート・グラスパーはあの『処女航...

(ただ、アルバム「Christian Atunde Adjuah」までは、一聴してすぐ分かるレベルで出ていたレディオヘッドの強い影響も「Stretch Music」で急に鳴りを潜め、あくまでスコットの音楽を構成する要素のひとつに。レディオヘッドの代わりに逆にオーソドックスなジャズの響きが増えてきました。

そういえば10年ほど前にマッコイ・タイナー・トリオのゲストでスコットが来日したとき、ビシッと決めたスーツにナイキのスニーカーを履いた姿で演奏する若いトランペッターの演奏を聴いて、「想像していたよりもマイルスフレーズが多くて、ぜんぜんオーソドックスだった。」とはトランペットを嗜んでいた先輩の弁。急進的な音楽性の下地に息づくジャズの伝統に感心したものでした。)


[間違いなく、今、ジャズを代表するスター]

近年、ジャズをとてもエキサイティングなものにしている大きな部分は、ヒップホップ、ソウル、エレクトロニックミュージックの影響を自分たちの音楽に取り込む若いアーティスト達の存在です。ロバート・グラスパー、テラス・マーティン、エスペランサ・スポルディングはこの動きの中心にいます。デリック・ホッジも言及に値する。これらのアーティストはジャズをアップデートするだけではありません。彼らは完全な一貫性を犠牲にすることなくその魅力を広げている。

まだ誰もスコットのように、ナイトクラブのクールネスとジャズクラブのリアリティのバランスを合致させることが出来ません。

(出典:exclaim.ca)


特殊なデザインのブラス楽器


Adams Instruments社と共同開発している独創的なデザインのブラス。


こういう特殊な形状のブラスを使う理由はスコットの弁によると、

ホーンに角度が付いたトランペットを使っている理由は「高音が出やすくなる」、「様々な質感、音色、サウンドを表現できる」、「息の湿度によって楽器の音を調整しやすい」から。

(出典:現代ジャズ辞典「クリスチャン・スコット」)

クリスチャンスコットが使用するトランペット
(出典:christianscott.tv)
トランペット、フルーゲルホルン、コルネットのダイナミクスをブレンドする「サイレン」

クリスチャンスコットが使用するトランペット
(出典:christianscott.tv)
「リバースフルーゲル」
独創的な形状のフリューゲルホルン。ダークな音色とアッパーレジスター(高音域?)の強調、2つの要素を持つデザイン。

クリスチャンスコットが使用するエフェクター
(出典:jazzapparatus.com)
使用するのはブラス楽器だけではなく、スコットの足元にはエフェクター類がズラッと並びます。

ROLAND (ローランド) SPD-SX
(出典:roland.com)
そして、今回のセンテニアルトリロジー作品から使用楽器に追加されているROLANDのSPD-SX。本来はドラマー/ パーカッショニスト向けのライブ用サンプラーで、ドラムスティックで叩いて鳴らします。
個人的にこうしたサンプリング・パッドのイメージが変わったのはYoutubeにアップされているFKA twigsのスタジオライブ動画を見てから。あの音楽をバンドで演奏しているというのも驚きですが、なんかふにゃふにゃしながらSPD-SXをスティックで叩いて斬新なサウンドを演奏するバンドメンバーの姿が本当に衝撃でした。


これを見て、「新世代」という言葉しか出てきません。演奏にはスポーツに近いような肉体操作の美のような部分もあると思うのですが(はっきりそこを競うような音楽も)、このスタジオライブはそことは違うように見えます。何というか運動神経悪そうです(悪口ではなく)。でも、鳴らされた楽器から出てくる音は新鮮でカッコいい。音楽の内容的にシーケンスを流せば同じサウンドを再現できるので、演奏する必要は無いと思うのですが。翻って80年代以降のジャズで有名な人は、基本、運動神経の良い人というイメージがあります。近年は特に、生演奏不可能と言われた音楽を、生で演奏出来るということに注目が集まっている側面もあります。

また、サンプラーという楽器も、2010年代に一瞬、MPCを抜群のスキルで演奏してて凄いというスポーツのようになりそうな流れもありました。ですが、こっちの流れになるなら、スポーツマンというより料理人の比喩の方が雰囲気を表現するのに適切という気がします(包丁捌き(肉体操作)の凄さは出てくる料理(作品)の美味しさの1要素でしょう?これは個人の見解です)。

クリスチャン・スコットが何を考えて、作品の中でサンプリング・パッドの使用を増やしたのか気になるところです。ジャズのこれからだけじゃなくエレクトロニックな音楽なんかも含めて、先の方に広がるヒントが眠っていそうな気がします。そのうちインタビュー等で言及されるといいですね。


トリロジーに参加するミュージシャン


現在のバンドを見る前に、過去のバンドメンバーをおさらい。ジャズでは一般的にバンドメンバーは流動的で、1年経つとガラッとメンバーが変わっていたりします。なので年式で音楽性に違いが出てきます。ひとりのミュージシャンを追っかけているだけで色んなミュージシャンが出てくるので、そんなアメコミっぽいところもジャズの魅力のひとつです。

the Christian Scott Ensemble メンバー遍歴

Anthem(2007)     Matthew Stevens(g)
Aaron Parks(p, rhodes, synth)
Walter Smith III(ts)
Louis Fouche(as)
Luques Curtis(b)
Marcus Gilmore(dr)
Live at Newport
(2008)
Matthew Stevens(g)
Aaron Parks(p)
Walter Smith III(ts)
Joe Sanders(b)
Jamire Williams(dr)
Yesterday You Said
Tomorrow(2010)
Matthew Stevens(g)
Milton Fletcher, Jr.(p)
Kris Funn(b)
Jamire Williams(dr)
Christian aTunde Adjuah
(2012)
Matthew Stevens(g)
Lawrence Fields(p, Rhodes, harpsichord)
Kris Funn(b)
Jamire Williams(dr)
Stretch Music(2015)    Elena Pinderhughes(fl)
Braxton Cook(as)
Corey King(tb)
Lawrence Fields(p, Rhodes)
Cliff Hines(g)
Kris Funn(b)
Corey Fonville(dr, SPD-SX)
Joe Dyson Jr.(Pan African Drums, SPD-SX)
Ruler Rebel(2017)    Elena Pinderhughes(fl)
Lawrence Fields(p, Rhodes)
Cliff Hines(g)
Luques Curtis(b)
Kris Funn(b)
Joshua Crumbly(b)
Corey Fonville(dr, SPD-SX)
Joe Dyson Jr.(Pan African Drums, SPD-SX)
Weedie Braimah(per)
Chief Shaka Shaka(per)
Sarah Elizabeth Charles(vo)

Matthew Stevens(マシュー・スティーヴンス)がレギュラーメンバーから抜けた「Stretch Music」で、音楽性に大きな変化がありましたので、いかにサウンドの中核を担っていたかが浮かんできますね。


Elena Pinderhughes(エレナ・ピンダーヒューズ)


才能溢れる若干22歳のフルート奏者。7歳からフルート演奏を始め、9歳のときに初レコーディングを経験。「Stretch Music」で大々的にフィーチャーされたあと、Commonの「Black America Again」にフックされたりと活躍の場を広げています。

Lawrence Fields(ローレンス・フィールズ)


「ローレンスは、この男とは折にふれて一緒に曲を作っている。」
(出典:Bandcamp Daily「Christian Scott’s “Ruler Rebel” Honors The History of Jazz While Pushing The Genre Forward」)
ディアスポラでは半数の曲がローレンス・フィールズとの共作になっています。ローレンス・フィールズは元々ミュージシャンになるつもりはなかったようで、学生時代に専攻していたのはプログラミング。それが故郷セントルイスでの演奏がきっかけで、バークリーへの進学を決意。ソフトウェア開発のキャリアからドロップアウトします。現在はスコットのバンドでの活動を筆頭に、ジェフ・ワッツやジョー・ロバーノ、テリ・リン・キャリントン、ブランフォード・マルサリス、ニコラス・ペイトンといった錚々たるミュージシャンとの共演や作品への参加で活躍するピアニストに。

Luques Curtis

Kris Funn

Corey Fonville(コーリー・フォンヴィル)

Joe Dyson, Jr(ジョー・ダイソン)

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Weedie Braimah(ウィーディ・ブレイマ)

Sarah Elizabeth Charles(サラ・エリザベス・チャールズ)


The Centennial Trilogy(センテニアルトリロジー)

よりオーセンティックなジャズを目指して

「ジャズには、一種の奇妙な二面性があります」とスコットは今日のジャズ音楽の状況について語った。「ジャズの伝統は、シドニー・ベシェやキッド・オリー、そしてその他の過去の巨匠の演奏方法を模倣することであるというこの考えを受け入れた人々がいます。だから、あなたがトランペットを演奏するなら、ルイ・アームストロング、ディジー・ガレスピー、マイルス・デイヴィス、クリフォード・ブラウン、これらの偉人たち(の演奏方法)をチェックする必要があり、あなたの音楽がジャズの非常に特殊な文化空間から来ていることを確かめる必要があります。

しかし、いったんそれらのもの(※ジャズの演奏技術)を開発したら選択肢があります。(伝統的とされている)ジャズの血の流れに落ち着くような音楽をクリエイトし続けること。もしくは外に出て新しい地平を探索すること。ジャズにおける実際の伝統は、新しい風景、新しい土地、新しい操作モード、音楽へのアプローチ方法などを絶えず探し出すことだと私は信じています。

(出典:Paste Magazine「Watch Christian Scott Rewrite the Rules With Rebel Ruler」)

“オーセンティック”とは、いかなるものか。それは必要なパーツが、あるべき姿でデザインされていること、なのです。そこにレトロやモダンといった時代感は介入していません。

[Ruler Rebel(ルーラー・レベル)]

[Diaspora(ディアスポラ)]

[The Emancipation Procrastination]

モトラブ抜粋版


ライブ


[Boiler Room x Ace Hotel New Orleans Live]

クリスチャン・スコット / Ruler Rebel(ルーラー・レベル)

現在最も注目を浴びるジャズ奏者のひとり、クリスチャン・スコットの2017年作が早くも完成。今年100周年を迎える「ジャズ」の誕生を記念し、リリースされる3部作”The Centennial Trilogy”の1枚目が登場。

現在を象徴するジャズミュージシャン。ニューオーリンズ出身で、自身の名義でこれまでに8枚のアルバムをリリース。マーカス・ミラー、ソウライブ、エディー・パルミエリ、トム・ヨーク、ソランジュ、ロバート・グラスパーと共演。自身のプロデュースで作成した「ストレッチ・ミュージック」(15年)は、これまでのキャリアの集大成と言える作品でしたが早くも完成した今作は、さらに大きな意味を持つ作品となっています。録音メンバーには、エレーナ・ピンダーヒューズ、ローレンス・フィールズ、コーリー・フォンヴィルなどツアーも共にするミュージシャンが参加。クリスチャンの芸術思想の根幹をなす作曲。想像力あふれる空間が広がり各パートの主張をしっかりフィーチャーし独自の概念によってクリスチャン・スコットの世界が創りだされています。タイトル曲1で幕を明け、リズムパートによるイントロに美しく流れるような綺麗なピアノで始まる2、美しく重なるサラ・エリザベス・チャールズの歌声をフィーチャーした4、フルート奏者エレーナをフィーチャーした楽曲を2曲収録。ジャズの音楽フォーム、言語、文化をさらに更新するクリスチャン・スコットのプロデュースする最新作。


PickUp

クリスチャン・スコット / Diaspora(ディアスポラ)

クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジュアーがリリースするジャズ100周年3部作『THE CENTENNIAL TRILOGY』の第2弾「ディアスポラ」が完成。
ニューオーリンズ出身、コンコードより鮮烈にメジャーデビューを果たし、ジャズ・シーンの先導を切ってきたクリスチャン・スコットの新作は本来ギリシャ語に由来する言葉<ディアスポラ>と題し、世界のつながりや愛をテーマに制作しました。
エレーナ・ピンダーヒューズをフィーチャーした1で幕を明け、ダンサブルなパーカッションのリズムをフィーチャー下3、迷い込んだ森の奥で先を導くように音楽が流れていく5、ジャズ・テイストが強い反映された6、疾走感溢れる7を収録。様々な音楽要素を融合しています。レコーディングには、ヴェテラン・A&Rのクリス・ダンを共同プロデューサーに迎え、エレーナ・ピンダーヒューズ、ブラクストン・クック、コーリー・フォンヴィル(Butcher Brown)、ジョー・ダイソン Jr.(Robert Glasper, Esperanza Spalding etc)、ローレンス・フィールズなど近年のクリスチャンの活動に欠かせないミュージシャンたちが参加。ニュー・オーリンズにて録音されました。


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