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UKジャズシーン:英国ジャズの最新潮流を知るための作品ガイド

英国ジャズ

最新英国ジャズの世界

UKジャズシーン新世代相関図
(※画像クリックでフルサイズ画像へ)

“実際、2017年はこのムーブメントのルネサンス・イヤーでした。 最早ジャズはマニアのためのジャンルとして認識されておらず、むしろ、先進的でクールなスタイルと受け取られています。”

(出典:「How British Jazz Won The Underground In 2017」)

“現在ロンドンではジャズが驚きの復活を果たしており、Kamaal Williams、Moses Boyd、Yussef Dayesなどの新世代アーティストたちが、新しいサウンドとスタイルでロンドンのジャズシーンを刷新している。”

(出典:「2018年注目のUKアーティスト 8組」)

トゥモロウズ・ウォリアーズとジャズ・リ:フレッシュドが地道に築いてきたコミュニティを背景に、新しいオーディエンスを獲得して復活したロンドンのジャズシーン。アフリカ系コミュニティが多いペッカムとカリブ系コミュニティが多いルイシャム。混ざり合うロンドン南部から飛び出した新世代のミュージシャンは音楽においても様々な要素を吸収し、US以上にクロスオーバーで、かといってオーディエンスを置いてけぼりにしない絶妙のバランス感覚でもって独自のジャズを創り出しています。そんな「英国ジャズの現在」を彩るアルバムたちを紹介します。


英国ジャズの最新潮流を知るための作品ガイド

ーー今までジャズとして知られていた音楽は、今まで以上にグライムやヒップホップ、アフロビート、エレクトロニックなダンスミュージックと融合し始めていますーー
※画像クリックでSpotifyのアルバムページへ

Moses Boyd Exodus『Rye Lane Shuffle』(2016)

「Rye Lane Shuffle」の成功はロンドンのジャズが新しいオーディエンスにどのように浸透してきたかを示す指標になりました。バスの中から眺めた次々に流れていくペッカム街並みにインスピレーションを得て製作されたこの曲は、新たなスウィンギング・ロンドンのアンセムに。

Moses Boyd 『Absolute Zero』(2017)

マックス・ローチ、ワイリー、エイフェックス・ツイン、マッドリブで育った若いドラマーが、テリー・ライリーとグライムを参照点に突然まったく新しい言葉を話しだしたとしても、それは少しも不思議なことではありません。誰もが試みて、誰も各要素をバランスさせることができなかったクロスオーバーサウンドを、まだ20代の若手ドラマーは獲得しています。その飛躍の真価は音源よりも、ぜひライブ動画で確認してください。

Ezra Collective 『Juan Pablo: The Philosopher』(2017)

ドラマー・フェミ・コレオソ率いるアフロビートとベースミュージックがジャズを土台に交わるスタイリッシュなサウンドが魅力のクインテット。ディラン・ジョーンズやジョー・アーモン・ジョーンズといったシーンのキーパーソンをメンバーに連ねます。ジャイルス・ピーターソンのWorldwide AwardsでBest Jazz Album of the Year受賞。人気を決定付けた2015年のボイラールームのライブ動画も必見!!

Oscar Jerome 『Where Are Your Branches? EP』(2018)

急成長しているロンドンのジャズシーンに優れたソングライティング注入するオスカー・ジェローム。ジョー・アーモン・ジョーンズ&マックスウェル・オーウィンのIdiomやアフロビートバンド・Kokorokoに参加するギタリストです。本作ではプロデュースにマックスウェル・オーウィンとWu-Luを迎え、スタイリッシュなヴォーカルを聴かせます。

Joe Armon-Jones & Maxwell Owin 「Idiom」(2017)

キングクルール周辺のMCピンティーなどにトラックを提供するウィザード・マックウェル・オーウィンに、エズラ・コレクティヴのジョー・アーモン・ジョーンズ、マイシャのジェイク・ロング、オスカー・ジェロームと南ロンドンジャズシーンのミュージシャンが集結。2ステップやブロークンビーツ、ダブがジャズの中に自然と溶け込んでいる感覚が、本当に新世代を感じさせる。

Nubya Garcia 『Nubya’s 5ive』(2017)

現在のUKジャズシーンを俯瞰してみると、その中心にはモーゼス・ボイドとヌビア・ガルシアがいることが分かります。それもそのはずで、このシーンのミュージシャンの多くは10年以上の顔見知り。修行時代から育んできたコミュニティが現在の活況へとストレートに繋がっています。本作はその成果とも言える作品でモーゼス・ボイド、エズラ・コレクティヴのフェミ・コレオソとジョー・アーモン・ジョーンズ、ネリアでのバンドメイトでココロコのリーダー、シャーリー・モーリスグレイ、マイシャのジェイク・ロング、ベーシスト・ダニエル・カシミールといったシーンの中心にいるミュージシャンが参加しています。ジャズの外にあった音楽の要素をジャズからハミ出すことなく昇華したサウンドは、まさに現UKジャズシーンを代表する作品というに相応しい内容となっています。

サンズ・オブ・ケメット‎–YourQueenIsAReptile

Sons of Kemet 「Your Queen Is A Reptile」(2018)

新世代UKジャズシーンを牽引するサックス奏者シャバカ・ハッチングス。そのサックスの音色からはアメリカのジャズレジェンド達からの影響が感じられますが、音楽のスタイルは寧ろトム・チャレンジャーやコートニー・パインといったUKからの影響が色濃く感じられます。サンズ・オブ・ケメットは、自身のプロジェクトに限らず様々なバンドで演奏するシャバカが音楽フェスティバルでしっかり観客を盛り上げるという意図を持って結成したフェス対応のジャズバンドです。テナー・サックスにツイン・ドラム、そして低音部を担当するチューバの変則編成のカルテット。シャバカのプロジェクトの中でもカリビアンとしてのルーツが強く出ていて自然と体が動くダンサブルなジャズを奏でます。本作の挑発的なタイトルからシャバカのそのパンキッシュなアティチュードも話題に。英SPIN誌は本作を紹介する記事の冒頭でセックス・ピストルズの「God save the Queen」を引用しています。

Hieroglyphic Being, Sarathy Korwar, Shabaka Hutchings 『A.R.E Project』‎(2017)

「昔も今も観客は踊りたがっている。観客の身体を突き動かす音楽を作ることと、芸術的にも音響的にも素晴らしい音楽を追求すること、そのバランスを探しています。」その言葉を証明するかのように様々なプロジェクトにシャバカ・ハッチングスの名前を見つけることができます。本作はロンドンで行なわれたシカゴハウスの鬼才ジャマル・モス、Ninja Tuneから2016年にジャズとエレクトロニカとインドのシッディ族の音楽を融合させた作品「Day to Day」をリリースしたタブラ奏者サラシー・コルワルとのセッションを4つのトラックにコンパイルしたもの。こんなジャンルを越境したフットワークの軽さもシャバカ・ハッチングスから目を離せないポイントになっています。

The Comet is Coming 『Channel The Spirits』(2016)

パンクジャズバンド「Melt Yourself Down」の活動を通して、従来のジャズリスナーとは違う新しい聴衆の存在に気づいたシャバカ・ハッチングス。積極的に活動の場を拡大していった彼は今ではシーンの顔役。「The Comet is Coming」は元々Danalogue the ConquererとBetamax Killerの2人でやってたエレクトロサイケユニット「Soccer96」へ、”King Shabaka”が参加するかたちで始まったUK産ジャズロックの最新モデル。実験色を抑え、スケールアップしたサウンドを聴かせる2017年作「Death to the Planet EP」も快作。

Nérija 『Nérija』(2016)

サックス奏者ヌビア・ガルシア、トランペッター・シャーリー・モーリスグレイ、ギタリストのシャーリー・テテーを擁するセプテット「ネリア」。メンバーの7人全員が女性で構成されています。クラウドファンディング「Kickstarter」で資金調達に成功し製作されたこのデビューEP。「The Fisherman」がおすすめです。また、先日ドミノレコーズと契約したことが発表され、今後の活動も楽しみなグループです。

Vels Trio 「Yellow Ochre」(2017)

Total Refreshment Centreがレーベルとして活動を始め、その第一弾リリースとして発表された本EP。もろBadBadNotGoodに影響を受けたと感じるトリオで、そのサウンドは親しみやすく今回挙げた作品の中でも特にポップです。シャバカ・ハッチングスが1曲でゲスト参加。


英国ジャズをさらに深く味わうためのライブ動画ガイド

Moses Boyd

Moses Boydが一人で『Absolute Zero』の世界を再現するsolo-Exodusのライブ。

Ezra Collective

彼らの人気を決定付けたボイラールームでのライブ。

SE Dub Collective

メンバーは流動的だがUK新世代ジャズシーンのミュージシャンの多くが名を連ねるダブバンド。
Nubya Garcia – Tenor Sax
Rosie Turton – Trombone
Axel Kaner-Lidstrom – Trumpet
Jasmine Breinburg – Vocals
Izzy Risk – Vocals
Poppy Ajudha – Vocals
Joe Armon-Jones – Keys
Oscar Laurence – Guitar
Jack Polley – Bass
Jake Long – Drums
Femi Koleoso – Percussion
Max Wallace-Jones – Effects

Joe Armon-Jones

Joe Armon- Jones (Keys)
Nubya Garcia (Sax)
Kwake Bass (Drums)
Mutale Chashi (Bass)
Dylan Jones (Trumpet)


出典:
Discogs
 「Moses Boyd」
 「Shabaka Hutchings」
 「Ezra Collective」
 「Joe Armon-Jones & Maxwell Owin ‎– Idiom」
 「Oscar Jerome」
 「Nubya Garcia」
 「Nérija」
 「Vels Trio」

Vinyl Factory「Scientists with soul: Moses Boyd on the drummers that shape his sound」

FADER
 「U.K. Producer Moses Boyd Blends Jazz With Grime On “Square Up”」
 「9 U.K. Artists Making Jazz Feel Brand New」

huck 「London’s young jazz heroes are crafting their own sound」

The New York Times 「With Sons of Kemet, Shabaka Hutchings Brings London Jazz Into the Spotlight

SPIN 「Sons of Kemet’s Thrilling Your Queen Is a Reptile Deserves Your Worship


We Out Here(2枚組アナログレコード)

Shabaka Hutchings、Moses Boyd 、Joe Armon-Jones擁するEzra Collectiveと燃え盛る若きロンドンのジャズマン達が大集結。UKジャズの新たなる記念碑がここに。

Gilles Peterson主宰の名門より、ストリートを中心に若きジャズマンたちによって生々しい活気に満ち溢れた新たなシーンを形成しつつあるロンドン・ジャズの“現在”をリポートするプロジェクト『We OutHere』がリリース。本プロジェクトは自らのバンドthe AncestorsやSonsof Kemetを率いて、ブラック~アフロからアヴァンまで現在のUKジャズ・シーンを牽引するShabaka Hutchingsが音楽ディレクターを務め、全曲本作のために録り下ろされた新曲を収録。収録アーティストはそのShabaka Hutchingsをはじめ、若手屈指の才能として大きな注目を集める天才ドラマーMoses Boyd、そして今最もアルバムが待たれている件伴奏者JoeArmon-Jones、そのJoeもメンバーとして名を連ねている南ロンドン・ストリートを席巻するEzra Collectiveなど今最も注目すべきアクトが集結。アシッド・ジャズやブロークン・ビーツの遺伝子を引き継ぎながら、エレクトロニカからダブまで様々な音楽要素を折衷してきたUKジャズの歴史を60年代のハード・バップの如き熱量で再生した現代ジャズの真骨頂にして、記念碑となるべき作品がここに誕生した。


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