ロンドンの次に注目を集める南アフリカのジャズシーン
ジャズは高尚で近づきにくい音楽と考えるのは時代遅れです。
(出典:Red Bull)
新世代のジャズは、伝統的なジャンルから距離を置いているプラットフォーム(※メディア等)から強力なプッシュを得ています。例えば、Pitchforkのトップページをチェックしてみると、カマシ・ワシントンとBadBadNotGoodがグライムズやフランク・オーシャンに並んで言及されていたりします。(中略)
同じメディアがBokani Dyer、Kyle Shepherd、Siya Makuzeni、Nduduzo MakhathiniなどのSAジャズアーティストのアルバムを聴いたら衝撃を受けるでしょう。ただそういうメディアは大抵、有名人と関連がないアルバムは聴かないのです。
(出典:okayafrica.)
2008年にアフロビートバンド「Ayetoro」のライブで演奏するために南アフリカを訪れたUKのサックス奏者シャバカ・ハッチングスは、その際に現地の若いミュージシャンに触れたことで、今までアブドゥーラ・イブラヒムやヒュー・マセケラといったイメージで捉えがちだった南アフリカジャズの認識を大きく変えます。若いミュージシャンが形成する豊かなジャズシーンがあることを知ったハッチングスは、南アフリカ出身のパートナーの存在もあってそれから1年に2回、2~3ヶ月滞在するようになり、南アフリカのジャズミュージシャンと関係を深めていきます。
その交流はShabaka And The Ancestors『Wisdom of Elders』という作品に結実し、世界中に南アフリカ(SA)のジャズシーンの存在を知らしめることになりました。 グローバルな文脈の共通言語を用いてローカルをアップデイトし、改めてグローバルから魅力的に映るシーンを形成する。「世界中で起こっている」と喧伝される現在のジャズルネッサンス。ロンドンの次に注目なのがヨハネスブルグです。
そんな注目を集めつつもまだまだ情報の少ないSAジャズシーンのアルバムを紹介します。
※プレイリスト作りました♪
南アフリカジャズの現在を知るための作品ガイド
※画像クリックでSpotifyのアルバムページへ(一部Bandcampへのリンクになってます)
MABUTA『Welcome To This World』(2018)
“Shane Cooper, he’s one of South Africa’s brightest talents in jazz
(シェーン・クーパー、彼は南アフリカのジャズシーンで最も才能に溢れたミュージシャンのひとりだ”
“『Welcome To This World』は、きっとこれからあなたが長く聴くことになるダイナミックなジャズアルバムの一つになるでしょう。”
(出典:okayafrica.)
Shane Cooperは日本でもKyle Shepherd trioのベーシストとして有名な人気ベーシストで、南アフリカのジャズシーンではピアニスト・Bokani Dyerをはじめとしてさまざまなジャズミュージシャンのアルバムに参加し、確固たるキャリアを築いています。そして、あまり知られていないですが実は『Card On Spokes』名義で活動するビートメイカーでもあります。『MABUTA』はそんなShane Cooperが本格的に始動させたジャズバンドです。馴染みのある響きのバンド名は、そのまんま日本語の瞼から取ったそう。『MABUTA』のメンバーに名を連ねるのはBokani Dyer (キーボード), Sisonke Xonti (テナーサックス), Robin Fassie-Kock (トランペット), Marlon Witbooi (ドラム), Reza Khota (ギター※Card On Spokesの「As We Surface」に参加)と実力者を集め、2曲でシャバカ・ハッチングスが参加。
Claude Cozens『Love Finds You』(2017)
クロード・コゼンズはカイル・シェパード、ベンジャミン・ジェフタと結成した自身のピアノトリオでの活動やMandla Mlangeni率いるTune Recreation Committee、Nduduzo Makhathiniの作品等で活躍する、「南アフリカで独自の道を切り開いている新世代の才能の最前線」と評価されるドラマーです。南アフリカのジャズのスタイルの1つ「Ghoema」とアフリカンミュージックのパーカッシブなアプローチを自身の演奏に取り入れています。そんな南アフリカジャズシーンきってのドラマーが2017年に発表した『Love Finds You』は、ジャズアルバムではなく、コゼンズのマルチ・インストゥルメンタリストの才能が爆発した色彩豊かなアフリカンポップソングアルバム。調べても一切情報がないので、おそらくと不確かな書き方になりますが、歌っているのもコゼンズ本人。このアルバムは「ジャズミュージシャンが作るポップミュージック」というグローバルな動きにシンクロし、グローバルな共通言語でもってローカルをアップデイトするというこれからの動きを先取っているとも言えます。それはともかくとして、ソングライターとしてのコゼンズの才能を存分に楽しんでください。ジャズサイド活動も活発で、2018年にはニューアルバム『Improvisation 1』のリリースも控えています。
Thandi Ntuli『Exiled』(2018)
このアルバムにも収録されている「Cosmic Light」がスパイク・リー原作のNetflixオリジナルドラマ「シーズ・ガッタ・ハヴ・イット」の劇中で使用され、Apple MusicのNew Artist Spotlightにも選ばれるなど突如として注目を集めだしたピアニスト・Thandi Ntuli。日本のApple Musicでは残念ながら1週間で注目アーティスト欄から外されてしまいましたが、このアルバムを聴けばその判断が間違っていたことにきっと気づくでしょう。『Exiled』は2014年にリリースされたデビューアルバム『The Offering』に続く2ndアルバム。参加メンバーもSphelelo Mazibuko (ドラム)、Keenan Ahrends (ギター)、Benjamin Jephta (ベース)、Marcus Wyatt (トランペット) と『The Offering』とほとんど同じで、現南アフリカジャズシーンの注目株が揃っています。楽器の音色と声の美しいブレンドは進化し、特にVuyo Sotasheをフィーチャーしたとび抜けてポップな「It’s Complicated, Pt. 1」がおすすめ。カバー写真はTseliso Monahengが手がけています。
Benjamin Jephta『Identity (feat. Jitsvinger & Eden Myrrh)』(2017)
Thandi Ntuliのバンドやクロード・コゼンズ、カイル・シェパードとのトリオなどなど、SAのジャズアルバムを聴いていくとベンジャミン・ジェフタの名前を度々目にします。そうした作品に触れるたびに(Red Bullの記事に頼らなくても)、なんとなく彼が現SAジャズシーンを代表するミュージシャンの一人だと分かってきます。『Identity』はジェフタの2ndアルバム『The Evolution of an Undefined』からの先行シングルでJitsvingerとEden Myrrhをフィーチャーしたジャズホップナンバー。ハッキリ書くと、ロバート・グラスパー・エクスペリメントからの影響は明らかです。そんな世界中に広がるグラスパーサウンドをヤングアフリカンはパワフルにオーバーライドしています。ニューアルバムのリリースが今一番楽しみなミュージシャンです。Kyle ShepherdやSphelelo Mazibuko、Sisonke Xontiとのクインテットによるシングル曲「Evolution part. 2」もおすすめ。
Siya Makuzeni『Out Of This World』(2016)
「彼女の歌はとんでもないよ!」とシャバカ・ハッチングスがコメントするのが、トロンボーン・プレイヤー兼ボーカリストのSiya Makuzeni。シェーン・クーパーのCard On SpokesのEPで聴くことができた、ドスのきいた魅力的な歌声を本アルバムではたっぷり堪能できます。本作の脇を固めるのはBenjamin Jephta(ベース)、Thandi Ntuli(ピアノ)、Sisonke Xonti(テナーサックス)と今注目を集めるミュージシャンたち。Justin Faulknerが1曲でゲスト参加。
Africa Plus 『Africa Plus(Live)』(2016)
2017年に一躍脚光を浴びた南アフリカのクラブミュージックシーン。なかでもドメスティックな人気を集めるDistruction Boyzのアルバム『Gqom Is The Future』の冒頭曲「My Guitar」にフィーチャーされていたのがベーシスト、Prince Bulo。Africa PlusはPrince Bulo(ベース)、Sphelelo Mazibuko(ドラム)、Lungelo Ngcobo(ピアノ)からなるピアノトリオフォーマットのバンド(※現在はサックス奏者Tshepo Tsotetsiも含めたカルテットに)。SAの「Young Jazz Giants」になるか?!
Gabi Motuba & Tumi Mogorosi『Sanctum Sanctorium』(2016)
UK新世代ジャズシーンを牽引するサックス奏者シャバカ・ハッチングスがその名前を世界に知らしめたプロジェクト『Shabaka And The Ancestors – Wisdom of Elders』。そのアルバムでドラムを叩いていたのがこの1987年生まれのTumi Mogorosi。『Wisdom of Elders』に先駆けて、2014年に英JAZZMANからリリースした自身1stアルバム『Project Elo』に収録されていた、ジャズヴォーカリスト、Gabi Motubaをフィーチャーしたナンバー「Thokozile Queen Mother」のイメージを発展させたような本作。前作ではまだぎこちなかったアフリカンスピリチュアル・ジャズとクラシックの融合を一歩進め、声とピアノ、弦楽器の美しい絡みを奏でている。メンバーはTumi Mogorosi(ドラム)、Gabi Motuba(ヴォーカル)に加えて、スイスのMalcolm Braff(ピアノ)、ドイツのSebastian Schuster(ベース)、チューリッヒ管弦楽団のAndeas Plattner(チェロ)。まず聴いてみるならGabi Motubaの声とMalcolm Braffのピアノの音色が美しい「The Arrival」がおすすめ。
Benjamin Jephta『Homecoming』(2015)
ベンジャミン・ジェフタのデビューアルバム。メンバーはKyle Shepherd(ピアノ)、 Sphelelo Mazibuko(ドラム)、Sisonke Xonti(テナーサックス)、Marcus Wyatt (トランペット)、Spha Mdlalose(ボーカル)。Thandi Ntuliのバンドとほぼ共通のメンバーです。
Nduduzo Makhathini『Reflections』(2017)
「彼は私の知っている(聴いたり、一緒に演奏したなかで)、最もインクレディブルなピアニストの一人だ。」シャバカ・ハッチングス (出典:Bandcamp Daily)
多作なNduduzo Makhathiniのどのアルバムをおすすめするかというのはとても難しく、The Ancestorsと同時期の『Icilongo』にしようかとも思ったのですが、一番シンプルなソロピアノ作品をチョイス。セロニアス・モンクオマージュなジャケットもグッド。
Shabaka And The Ancestors『Wisdom of Elders』(2016)
「彼ら(の演奏)はエクスタシーに到達しようとしているように感じます。(中略)それに最も近いのはジョン・コルトレーンのレコードを聞いたときに感じるものです。」シャバカ・ハッチングス (出典:Bandcamp Daily)
Shabaka Hutchings(テナーサックス)
Mthunzi Mvubu(アルトサックス)
Mandla Mlangeni(トランペット)
Siyabonga Mthembu(ヴォーカル)
Nduduzo Makhathini(Rhodes、ピアノ)
Ariel Zamonsky(ベース)
Gontse Makhene(パーカッション)
Tumi Mogorosi(ドラム)
出典:
The Guardian
「‘Small pockets of cool all around’: jazz star Shabaka Hutchings on Johannesburg」
Red Bull
「Jazz demystified」
okayafrica.com
「South Africa’s Jazz Scene Comes Together on Card On Spokes’ New EP」
「The Best South African Music of The Month」
「This South African Jazz Album Is This Month’s Apple Music Spotlight」
City Press
「The incredible exploding career of Thandi Ntuli」
Mail & Guardian
「Musician Benjamin Jephta is high on the low notes」
Africa Plus 公式サイト
Tumi Mogorosi 公式サイト
Bokani Dyer 公式サイト
Bandcamp
「Shabaka And The Ancestors」
Bandcamp Daily
「On “Wisdom of Elders,” Shabaka Channels the Spirit of South African Jazz」
Jazz Club The Orbit 公式サイト
a blog supreme
「Three Jazz Pianists, A Generation After Apartheid」

Mabuta(マブタ)「Welcome To This World」
[Daedelusによるリミックス音源のダウンロードコードつき] 南ア ジャズの極北。絶頂期を迎えるUKジャズシーンのルーツはアフリカに! Shabaka Hutchings参加のアフロジャズ版””Kid A””が映し出す、小宇宙ドリーム。
“量子コンピュータはミンガスやジャコパスの夢を見るか?” 瞼のむこう、ベースの茶、ピアノの黒、そしてブラスとシンバルの金に、ブルーライトが乱反射する。 さぁ、今こそ瞼を閉じ、電化ジャズのシンギュラリティを目撃せよ! Kyle ShepherdやLionel
Louekeらと共に演奏し南アフリカの若いジャズシーンを牽引してきたダブルベース奏者 Shane Cooperによるシン・プロジェクトがついに上陸。ミンガスとSquarepusherの遺伝子を引き継ぐアフリカ大陸随一の異端によるキャリア最大の音絵巻は、いまロンドンを中心に烈火の如く盛り上がる新世代ジャズシーンと完全にリンクした、ダンサブルでハイエナジーなエレクトリック・アフロ・ジャズ!
Card On Spokes名義でDaedalusやLittle Dragon、Young Fathersらのツアーに同行する自身のエレクトリックサイドと、研究精神とミュージシャンシップ溢れるジャズメンサイドが溶け合った奇跡の様なこの作品の完成度と緊張感は、まるでアフロジャズ版の”Kid
A”。マリの伝統音楽からアフロビート、エチオジャズに至るまで、そのすべてが異次元で結びつき、まったく新しい音楽を我々に提示してみせる様はまさに圧巻。 ケープタウンのDJ文化がアフリカの広大な大地に産み落とした、電脳世界のグルーヴモンスターの足音がすぐそこまで来ている…衝撃に備えよ!